ずっとキミが好きでした。

ーーーガタン!!










古びたドアが鈍い音を立てた。



振り返ると、おれをがさつ呼ばわりする、真のがさつ男がこちらを睨んでいた。




ぽかんとしていたなっつんも我に返って、やってきた男をまじまじと見つめた。







「みく。お前、余計なやつ呼んだな」





「余計じゃないよ。翼の意見も聞いた方がラブソングとして深みが出るかと思って」






「男みたいなヤツにラブソングなんてわかるかよ」






…やっぱりあっすーは最低だ。


おれをなんだと思ってるんだ。






おれは牙を剥いた。






 
「いいから早く聞かせろよ!遅刻してきたのに大口叩いてんじゃねえ!」







「はあ?ばさおに言われたくねえわ!!音楽も女心も分からないヤツに俺は聴いてほしくねえ!!帰れ!!」






「帰るのはそっちだろ?おれはみっくんに呼ばれて来たんだ!帰るつもりはない!」







淀んだ険悪な空気が辺りに漂った。


おれとあっすーの犬猿の仲を詳しく知らない他のバンドのメンバーは、「オレら帰るわ」と言って出て行ってしまった。


ごたごたに巻き込まれたくないのだろう。




おれだって本当は、これ以上怒鳴り散らしたくない。


そうなると、もう、常識的におれも踵を返すしかない。


リュックを背負って帰ろうとした、








その時だ。









「クッキー…食べませんか?」






おれたちの黒い空気をはねのけ、天使が舞い降りてきた。



おれは、なっつんお手製のクッキーを、
素早く取り、一つ口に入れた。


甘いものには目の無い橘ツインもクッキーに手を伸ばす。






「これ、うまっ!」






「ありがと、戸田さん」






クッキーの魔法だ。


いつの間にかあっすーの顔に笑顔が戻っていた。


出会った頃から変わらない、天真爛漫な笑顔がキラキラと光っていた。




長いこと見ていなかったけど、こんな感じで笑っていたのか?




おれの知らない複雑な感情が渦を巻いた。







結局、雌豹と百獣の王ライオンの勝負は、天使の仲介のおかげで引き分けに終わった。