ずっとキミが好きでした。

「なっつん、今日部活行くの遅くなる」


    



「委員会?」






「いや、みっくんにちょっと頼まれたから」




 
「みっくんさんって…ーー橘未来音くん?軽音部の?」






「まあ…そうだけど」






おれがそう答えると、なっつんは眼鏡の下からまん丸の目をパッと見開いた。






 
「へえーすごいね!軽音部の橘ツインって校内じゃ一番の人気だよね!」






そう、その通り。


橘ツインは学校のアイドルだ。


幼なじみのおれは、幼い頃から彼らの容姿を見てきたが、確かに言われてみれば、そんじょそこらの男子より、何倍も整っている。


どちらも身長は175センチ以上あり、すらりとした足、頼りがいのある大きな背中に掛けられた年季の入ったギターケース。


兄の未来音が青。


弟の明日音が赤。



ギターを弾く姿も凛々しく、歌声はどこかほろ苦くて甘い。


女子を虜にする要素は満載だ。




風の噂によると、彼らのファンクラブがあって会員は月に3、4人ずつ増えて今現在100人はいるのだとか。


全校生徒720人に対し、女子は男子より若干多い。


約360人分の100人…。


三割には達しないが、改めて考えると、それでもすごい数。


とにかく橘ツインは学校中の人気者だというわけだ。




それにしても、普段大人しいなっつんがこんなに食いついてくるとは驚いた。


まして軽音部なんて縁もゆかりもないと思っていたのにーー。





  
なっつんは意気揚々と話を続けた。



 

「もしよかったら…私もついて行っていい?」





「…へ?」






おれが首を傾げて呆然としていると、目の前になっつんの可愛らしい顔が、どでーんと迫ってきた。






「私、興味あるんだ、彼らの音楽に。勇気が出なくて今まで行けなかったけど、翼ちゃんと仲良くなって良かった!昨日部活で焼いたクッキー、まだ残ってるから、それ持って行くね!」





なっつんはおれの同意などお構いなしだ。





なっつんて、こんな子だったか?




疑問符を頭に何個も浮かべているおれとは対照的に、なっつんは浮き足立っていた。


幸せそのものみたいな表情で、ホームルームが終わるのを今か今かと待ち構えている。




でもそういう時ほど時計の針はノロノロと回る。


本当に動いているのかと疑いたくなるくらいに…。







おれは時計よりも、徐々に沈んでいく真っ赤な夕日を見て、その眩しさに目を細めていた。