だけどその願いは虚しく、3コールほど流れたところでプツッと音が切れた。

そして聞こえてくる「…梨央?」という聞きなれた低い声。


「よぉ、真白か」

「えっ?」


途端驚いた声が通話口から漏れてくる。

無理もない。コウさんからしてみれば私の携帯から弦さんの声がするんだもん。

しかも1発目からちょっぴり挑発的な弦さんの口調。


「悪いが彼女は預かった」

「……は?」

「無事に返してほしけりゃ今から30分以内に店に来い。1分でも遅れたらお前の可愛い彼女は俺がもらう。俺は本気だ。さぁ頑張れよ」


そう言ってブチッと通話が切れた。

ていうより、弦さんが無理矢理切ったのだ。

しかも御丁寧に主電源まで切ってしまった彼は悪どい顔で私に笑いかける。


「くっ、さぁ楽しみだな。あいつの本気を見せてもらおうか。嬢ちゃんも期待してな。これは面白いもんが見れそうだ」


なんて言うもんだから、開いた口が塞がらなかった。

というより、思いっきり蒼白な顔を向けてしまった。


「……あ、あの、これは我が儘と言うよりむしろ脅迫ではないでしょうか?」


完全にそうだと思う。

恐る恐る呟いた声は、きっと今の彼には面白いぐらいのスパイスにしかならないのだろう。

その証拠に弦さんはさっきからやたら楽しそうだ。

向けられたニヤリ顔がいつになく恐ろしく、ゾッと身震いさえしてしまった私はこの後に起こるだろう恐怖に体が縮こまる。