俺は着替えを済ませると、お決まりのようにキッチンに立とうとする梨央の背後に向かった。
今日は別にご飯を作らなくてもいいことを伝えたかったのだけど、梨央は「大丈夫」と言って俺をキッチンから無理矢理押しやった。
正直それをしてもらいたくて迎えに行った訳じゃないし、梨央に毎回負担をかけるつもりは当然だけど俺にはない。
だけど梨央は「いいの、私が作りたいの」と言って自分の意思を貫いた。
「そう言えば親御さんは此処に来ること言ったのか?何も言われなかった?」
「それならぜーんぜん。うちの親はコウさん信用してますから。むしろそのまま貰ってもらえ。だなんて言ってるぐらいですし」
梨央がオーバーアクションで肩をすくめる。
「嬉しいけど、困ったもんですね」
そう言ってビールを口に含む梨央に俺は「ふっ」と顔が緩んでいくのを感じる。
梨央が作ってくれた料理に手にかけると、優しい味が身体に染み込んでいく。
素直に美味いと感じる。
普段コンビニ弁当ばかりからか、この前の敦士じゃないが俺も家庭的な味に飢えていたのかもしれないと、改めて実感するほどに。
「なんなら本当にそうなるか?」
「えっ?」
「別に俺はお前となら一緒に住んでもいいと思ってる」
こんな美味い飯が毎日食えるなら尚更なこと。
正直らしくない発言だということは分かっていたが、それ以上に梨央が欲しいと思うこの感情をセーブできない。自分でも意外なほど。



