梨央の基本的な行動は澤田と暮らしていた時に無意識に学んだものかもしれない。
それに気付いた時、さすがの俺もどうしたもんかと考えた。
それと同時にせっかく押し込んでいたあの男への苛立ちが再び顔を出しそうになったからだ。
「…あ、あの……」
この時、俺はきっと険しい顔をしていたのかもしれない。
罰が悪そうに俺の顔色を覗きこもうとする梨央。それが何よりの証拠。
俺は咄嗟に手を伸ばし、半乾きの髪の毛にかけたタオルの上からわしゃわしゃと乱すようにした。
何となく癪で、そんな俺の顔を見られるのが嫌だった。
「とりあえずこれで寒さをしのげよ」
そう言いながら暖房も少し強めにした。
冷静さを保ちつつそんな言葉で彼女の視線をシャットアウトすれば、梨央は戸惑いながらも大人しくなった。
もうこの話題は避けた方がいい。
そんなことを思いつつ、そのまま彼女を俺のマンションまで連れていくと、気を取り直したように梨央は笑いかけてきた。
「元気でした?」
この笑顔に弱いんだと思う。
「会いに来てくれて嬉しいです」
その一言で今日の疲れが一気に吹き飛ぶような感覚さえしてしまうのは、きっと気のせいではないだろう。



