「アホか、ちゃんと乾かしてこいよ。風邪引くだろ」
「だってコウさん待たせちゃ悪いと思って」
「別に俺のことはどうでもいいんだよ」
梨央はいつだって俺のことを優先させる。
それがいいのか悪いのか、彼女の一言一言にはたまに考えさせられる時がある。
「だって、男の人って待たされるの嫌いでしょ?」
どこからそんな情報を得たんだろうか。
確かにそういうタイプの男もいるだろうが。悪びれもなくそう言い放った梨央に俺は思わず動きを止める。
「それは人によるだろう?」
「コウさんは違うの?だって宗一郎さんの時は……」
そう言いかけて、あっ…と口元を押さえた梨央が気まづそうに俺を見た。
その顔はあからさまにしまった。というような素振りで言ってはいけないことを言ってしまった。
そんなとこだろうか?
俺は一瞬無言になり、だけど常備してあった使ってないタオルを取り出すと梨央の頭に無造作にほうりかけた。
「あの男と俺を一緒にすんじゃねーよ」
この時俺は何となく分かったような気がした。
梨央が向ける俺に対しての遠慮や態度。それらの全があの男から植え付けられたものだということが。



