「……」
だから何だと言いかけそうになってやめた。俺の直感がそれは面倒なことになると察知する。
そもそもお袋がそんなことを言う立場じゃないのか、そうなのか。
普段料理をしない、いや、できないお袋は致命的な味音痴だ。
忘れもしない子供の頃、俺がハンバーグが食べたいと言ったら黒こげの何故か塩辛いものが食卓に並んだ。
カレーをリクエストした時にはチョコレート並みに甘ったるいサラサラとした液体を飲まされた。
その信じられない武勇伝は他にも数多くあり、子供ながらにこの人には二度とリクエストはしてはいけないと、本能で感じとったのを覚えてる。
だからうちに出てくる料理はいつも常勤のお手伝いさんが作ってるため、彼女の口から食生活という単語が出てくるのは殆んどないのだが、お袋はにこやかに俺に詰め寄ってくる。
「最近ど~う?」
「…何がだよ」
「色々と」
語尾にハートマークでも付いてそうな言いわましに俺は思わず一歩下がる。
きっと私生活について聞きたいのだと思うが、こうも興味津々に聞かれたら俺も素直になれない。別に話したくないわけではないが躊躇する。



