愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。


部屋を出るとすぐ、「晃一!」と呼ぶ声に引き留められる。
振り向くとそこには今回の主犯格、お袋がにこやかに立っていた。

「久しぶりね」

「…ああ」

「もう、来てたんなら声ぐらいかけなさいよ。相変わらず素っ気ないんだから」

和服姿のお袋は両手で収まる大きさの生け花を持っている。
お袋の趣味の教室の帰りだろうか?昔から花をいじったり育てたりするのが好きなお袋は毎週生け花教室に通ってる。

「なに?丈さんに用事?何か話でもしてたの?」

「ああ、急に呼ばれたんでね」

「ふーん、仕事の話し?」

「まぁ、そんなとこ」

「ふーん」

表情を伺うように見られ困惑する。何だよその眼は、と思ったけれど、あえて気にしない素振りでお袋に向き合った。 

「元気そうだな」

「まぁね、元気だけが取り柄だから。でも晃一だって顔色がいいじゃない。以前会った時より見違えるほど健康的に見えるわよ」

何故か意味深に笑われて俺は真顔でスルーする。お袋の考えてることをあえて推測しないようにする、が、

「きっと私生活が充実してるのね。毎日美味しいものでも食べてるのかしら?」

「は?」

「人ってね、食生活で随分と変わるものなのよ。毎日バランスの取れた食生活を送れるのってすごく有難いことよ。ね?」