一瞬そんな疑問が過ったけど、それは一瞬。肩に掛けられたスーツの重み。上着の存在を感じた私はハッとする。
「やばい、これ…」
返し忘れてる…
話しに夢中になり過ぎてそのまま借りっぱなしで帰ってきてしまったのに気が付いた。
「ど、どうしよう…」
連絡先も聞かなかった。
どこかの社長さんだということは分かるけど、どこの誰だか分からない。
やばいやばいやばい。
これは一度コウさんに相談しなきゃ。
そう思い、いつもより早く帰ってきたコウさんに嬉しさがアップ。
食事をするよりも先に今日の出来事を話すと何故か目の前のお顔がみるみると険しい顔つきに。
「…で、これが返し忘れたスーツだと」
「そうなんです!いったいどうしたら…」
「それは色々とお説教が必要だな」
「は…えっ?あれ、何か怒ってます?」
驚いた私は恐る恐る目線を合わす。
「そんな話を聞かされてニコニコ笑えってか。普通は無理だろう」
そしてじろりと睨まれる。
「あの、怒りの内容はどのような…」
てっきり親身に聞いてくれると思いきやこの反応。多少は呆れられるかなとは思ったけど、まさか彼の怒りスイッチに触れるとは。
「本当危なっかしい奴だな」
「そんなことない、今日はたまたま運が悪かっただけで…っ…!て、それよりも…」
「ちょっと来い」
「や、やだ」
一瞬、延びてきた彼の手に両頬を引っ張られそうになって素早く交わす。
「こら」
「じゃなくてこれです!」
思わずソファー裏に隠れ、渡したスーツを見てとビシッと指で指示をする。



