「過去の後悔に囚われ続けても何の意味もない。大事なのは今だろ?あんたもそろそろ前を見て未来に向かって進んだらどうなんだ」
「…俺は……」
「こいつも…、梨央も前に進んで歩こうとしてる。やっと過去と決別してちゃんと自分の足で未来に歩こうとしてるんだ。その邪魔だけはするんじゃねーよ」
コウさん…
そう言って私の頭を撫でた彼に再び生ぬるい涙が溢れだす。
こんな時なのに、私のことをちゃんと考えてくれていることが嬉しい。
彼の一つ一つの言葉が胸の中に優しく染み渡っていくようで、抱き締められてる力が揺るんだ瞬間、顔だけをゆっくり上げた。
「これ以上梨央を傷付けるなら俺も黙っていない。あんたも弁護士の端くれならまずは自分の身辺整理ぐらいちゃんとしとけ」
慎ちゃんは愕然としたように何も言わなかった。
顔を曇らせたまま、だけど何かに気付かされたように「すみませんでした」と頭を下げた。
緊迫した空間がまた少しずつ落ち着きを取り戻していくと、慎ちゃんが何かを決意した面持ちでゆっくり口を開く。
「もう一度彼女とちゃんと話し合ってきます」
「そうしてくれるとありがたいね」
慎ちゃんは最後に深々と頭を下げた。
それと同時にまるで何かを諦めたような表情も垣間見え、
顔を上げた瞬間、一瞬だけ目があったけれど、やっぱり切なそうに目を細めらただけで彼は何も言うことなく、玄関を出て行った。



