そして続けざまに言った。

「彼女は俺の全てだったんです。ずっと大事にしてたんですよ。だから悔しいんです。あんな出来事さえなかったら今頃未来は違ったはずなのに」

と。


そこまで聞いて俺は目を細める。

確かに3年前、あんな状況じゃどうすることもできなかっただろう。

見るからに力の差はついていた。

それ以上に澤田宗一郎という男は凶悪で敵に回したくない野郎だということは目に見えている。


「もう俺の持ちは分かりますよね?だから正直に言います。
後悔しました。あの時彼女を手放してしまったことを。何か他に救う手立てがあったんじゃなかったのかって。そればかり考えて…」

「けど、あんたは……」

「結婚もその後悔の一つです。正直間違いでした。自分から本気でしたいなんて思ってなかった結果がこれですよ」


そう言って笑ったけど、俺は笑えない。

今更そんなことカミングアウトされたところで俺には不愉快しか感じられない。


「だからどうしろと?」

「驚くほど冷静ですね?それがあなたの余裕ですか?」

「そう見えるあんたは何がしたいんだ」

「返してください。そう言ったらそうしてくれるんですか?」


苛立ちが込み上げる。

鋭い沈黙を向け、放たれる敵意を真っ向から受け止める。

こうもダイレクトにぶつけられれば流石の俺も胸糞が悪くなってくる。


……が、



「嘘です。さすがにそこまではしませんよ。それ以前に梨央の気持ちは今あなたに向いてますからね。
そもそもあなたに恨みを向けるのはお門違いでしょ?
別に俺はあなた達の仲を裂こうとしてるわけじゃない。……ただ、梨央には笑っていてほしい。あの笑顔を守りたいだけです。俺は俺なりのやり方でできる限りのことをしたいと思ってるだけです」