「そうですか」と答えると、ソファーに置いてあった荷物に手を伸ばし、コートを羽織ると再びこちらに視線が向いた。


「なんなら代わりましょうか?梨央の看病なら慣れてます。仕事の合間にこうしてちょくちょく顔を出すのも大変でしょう?俺なら家も隣だし、いつでも何かと融通はききますから」


再び俺に向かってにこやかに笑った。

だけどそれは今までとは明らかに質の違う笑みの作り方で、俺がそんな顔色の変化に気づかないはずがない。

仕事柄今まで色んなタイプの人間と関わってきたからこそ分かる嘘や誤魔化し、表情一つにして見破る能力が人一倍鋭くなったのは自然の流れかもしれない。



「……それも冗談ですか?」


だから俺も声の質を変えた。

本音を伺うように視線を定めれば、目の前の男から案の定張り付いていた笑みがスッと消える。


「いえ、希望です」


そして周りの空気がピリつくような雰囲気に変わる。俺は改めて確信する。

以前初めて会った時にもすでに感づいていたが、この男の梨央に対しての気持ちは明らかにただの幼馴染というものを越えていた。

それが男としての嫉妬。俺への当て付けということもこの様子からして見て取れる。