「アホ言わないでください。そんなんだから60手前にして嫁さんに逃げられるんですよ?俺は暇潰しの材料ですか」

「まぁまぁ、たまにはこういうのも刺激的でいいだろ?仕事ばっかりしててもこの先お堅い人生真っ暗だぞ」


それを聞いてコウさんは口を閉ざした。

そして次の瞬間げんなりと息を吐く。

きっとこの様子からして今の弦さんに何を言っても無駄なんだろうと悟ったのかもしれない。

その証拠にもうコウさんの表情からは怒りはなく、呆れた素振りしか見て取れなかった。


「とりあえず今日はもうこれで、こいつは連れて帰りますよ」

「ああ、そうしてくれ。この調子で此処にいたら俺じゃなくても他の得たいの知れない野郎に取って食われる可能性大だからな」


その言葉にまたコウさんは押し黙まった。

そして再び私の方へと視線を向ける。


「…梨央…、お前1人で飲んでたのか」

「えっ、そうですけど…、ダメでした?」


首を傾けると何故かじっと見つめられた。

そしてやっぱり深いため息をつかれる。

何か言いたそうな感じもしたけれど、コウさんはその後は何も言わずそのまま私の手を掴み出入り口の方へと向かって行く。


彼に手を引かれる瞬間私は慌てて弦さんの方に振り返り、「ありがとうございました」と口パクで告げると、弦さんも「頑張れよ」と言葉を返し、やんわりと手を上げてくれた。