「昔は自分に酷いことをした相手が好きって言うし、優しくされたり甘い言葉を囁かれちゃうと、そりゃ誰だって戸惑うよね。……今の美空、まさにその状況じゃない」

断言する朋子になにも言えない。あり得ないと思いつつも、心が落ち着かないから。


「今週の土曜日もデートの約束をしたんでしょ? いいんじゃないかな。今の彼が美空に対して誠実で、あんたのことを心から好きで大切にしてくれるなら、もう昔のことを忘れて好きになっても。……美空も彼の正体に気づいていなかった、それでいいじゃない」

「でも……」

素直に頷くことができない。君嶋くんは私だって気づいていないし、私の存在すら忘れているかもしれない。

けれど私は忘れたことなんて、一度もなかったから。

それなのに彼の正体に気づかず、お見合いの席が“初めまして”だってなんて思うことはできないよ。

考えれば考えるほど自分の気持ちがわからなくなる。


私は君嶋くんに惹かれているんだよね? だからこの前、正体を明かすことも、もう会わないと伝えることもできなかったんだよね?