復讐劇は苦い恋の味

君嶋くんは私の名前を覚えたって意味がないといった。……無駄なことだとも。

そんな彼が私の下の名前を知っているの?

「君嶋くんは……知っているの?」

「えっ?」

驚く彼に唇を噛みしめ聞いた。

「私の、名前……」

昔あなたは私の名前を知らなかったのに――。

ジッと彼を見つめると、君嶋くんはクスリと笑い呆れたように言った。

「知っているに決まっているだろ? ……好きな人の名前を知らないわけがない」

「……っ!」

そして真っ直ぐ私の瞳を見つめる。


「常盤美空さん……でしょ? ……これからは美空ちゃんって呼んでもいい?」

美空ちゃん――だなんて……。

昔の私が聞いたら笑っちゃうよ。覚えるのも無駄だと言っていた彼が、『美空ちゃんって呼んでいい?』なんて言うのだから。

「やっぱりだめかな? ごめん、馴れ馴れしすぎたよね」

なにも言わない私に彼は急に慌て出す。

本当に馴れ馴れしすぎ。でもそれは、君嶋くんが私の正体を知らないからだ。

彼は病院で事務員として働く“常盤美空”しか知らない。