君だけに愛を乞う

会社を出ようとしたところで偶然会社に帰って来た彼に会ってしまい足を止めた。

走っていた私を不思議に思ったのか『どうした?』と聞いてきたけど、混乱していた私は彼を睨むことしかできずにいた。

『美月?』

心配そうに私の肩を掴んだその手を、私は振りほどいた。

『もう、やだ』

『何?どうしたんだ?』

私の不機嫌な理由を知ろうと顔を覗き込んできたので、それを避けるように顔を背けた。

『分からない...分からないよ。でも..』

自分の気持ちを話そうとした時、彼のスマートフォンが着信を知らせた。

『美月ごめん、ちょっと待って』

そう言って電話に出た。

『もしもし、お疲れ様。...ああ、今戻ったから...分かっているよ。菅野いまどこ?...じゃあとりあえず会議室に準備しておいて。これから向かうから』

彼の電話の相手が菅野さんと分かって、今降りたエレベーターの方を見ると彼女がまだそこにいて、電話している姿が見える。

私と彼が一緒にいることを分かっていて電話をかけてきたのだ。

いつもこうして彼女が割り込んでくる。

少なくなった私達の貴重な時間にも、彼女はよく仕事の電話をかけてきた。

わざとだったんだ....やっばり。

沸き立つ怒りを抑えられず、電話中の彼をおいて早足で歩き出した。

『美月!』

私の名を呼んだ彼を無視して、そのまま帰宅した。