君だけに愛を乞う

「俺を置いていくな」

言い聞かせるように言った彼は拗ねたような顔をしている。

「だって!、あんなところを...」

見られるなんてと言葉が続いていかない。
 
佐々木くんに見られたことだってめちゃくちゃ恥ずかしいのに、営業部の人達にまで聞かれるなんて。

もう恥ずかしくて恥ずかしくて一刻も早く逃げ出したい。

そんな私とは対照的に、彼は落ち着いた声で私を制する。

「分かったから落ち着け。大丈夫、あっちは佐々木がどうにかしてくれるから」

「でも...佐々木くんに見られたのだって恥ずかしいよ」

「あいつはいいんだよ。いつも俺と美月の心配してたから。あっ、ほらエレベーター来たぞ」

到着のチャイムが鳴り、扉が開くと手を引かれて中に乗った。

彼は何も言わず私の部署のある階数のボタンを押して前を見た。

エレベーター内でも手はつながれたまま。

握り返すことはできなくて、妙に意識してしまう。

「とりあえず美月の荷物取りに行こう」

「えっ?仕事は大丈夫なの?」

心配する私に「ほら」と言って、バッグを持った左手を挙げてみせる。

「あ...そうなんだ」

いつの間にバッグを持ったのか不思議に思いながらも、到着したエレベーターから降りて歩き出す。

ふと未だに手をつないでいることに気付いて、慌てて手を離した。

「なんだよ~、いいじゃん」

「よくない!」

真っ赤になった私の顔を見て、彼は笑い出す。

私はそんな彼を置いて小走りで広報部に向かった。