“無事だといいな”?
何かを知っているような若頭の言い方に引っかかりを覚えた。
「“何が”ですか?」
「さあな」
絶対コイツリカコに何かしやがった。
じゃなかったら無事だといいな、なんて言えるわけないじゃん。
「友達に何したんですか」
「手伝う気になったか?」
「…最低」
そう言うと若頭は自傷気味に笑った。
「最低じゃなかったらこんな職つけねえだろうが」
それもそうだ。
こんなゲスい事して職が公務員だったらぶん殴ってるところだった。
だけど相手はヤクザ。
落ち着け私。
リカコの身の心配をするのが先だ。
「手伝うんで友達返してください」
「ならこの紙にサインしろ」
そう言って突きつけられた一枚の契約書。
なんか怪しい。
「少し時間下さい。あと虫眼鏡も」
とんでもない契約書だったら嫌だし、時間をかけてじっくり読もう。
こんな小ちゃい字も若頭に借りた虫眼鏡でじっくり読み、変なことが書いてなかったのでサインした。
「中野沙耶か…」
「はい中野です」
「いい名前だな」
「…そりゃあどうも」
いきなり褒めないでよ。
びっくりして顔真っ赤になっちゃうじゃん!
もう若頭の顔見れないし。
下に俯き髪で顔を隠していると、
「なに真っ赤になってんだよ」
余裕の笑みを向けて扉から出て言った。
「なにアイツ」
もうなんなの!!
心臓持たないって!!!


