「あの、本当にもういいんで。私もう帰ります」
スッと若頭から距離を取った私に一言。
「入るんだろ」
クルッと踵を返し、クラブの入り口に立ってドアを開けた若頭は私に中に入るのかと聞いてくる。
「早くしろ」
半ば強制的に入らせられたクラブ内はガヤガヤとしていて薄暗かった。
「こっちだ」
手首を掴まれ誘導された場所はまさかまさかの個室。
所謂VIPルームだった。
「何か飲むか」
「…烏龍茶で」
そう言うと、部屋に備え付けられていた電話で飲み物を注文してくれた若頭。
その後ろ姿を見て、リカコに知られたらまた心配されるだろうなって考えていた。
「………」
「………」
会話が終了した空間には沈黙が訪れる。
息しづらいし、なんか若頭の顔見れないしこの空間疲れるな。
無駄に緊張した私に対し、大きなソファを独り占めしている若頭は堂々とした態度で優雅に店員が持ってきたホットコーヒーを飲んでいた。
「あの…私そろそろ」
一気に飲み干したジュースをそっとテーブルに置き立ち上がった私を一瞥して若頭は一言。


