チャラ男の力が緩んだ隙に距離を取ると、未だ固まったままのチャラの視線を辿ってみた。
二階にあるVIPルームらしき所からこちらを見下している一人の男。
一瞬にして時が止まったような気がした。
この世の物とは思えないほどの美貌に。
その蛇のような目に。
何もかも吸い寄せられるかのような目がとても怖かった。
顔の整った男はチャラ男を一瞥した後、不意に私を見下ろした。
視線が合わさり、息をする事も忘れていた。
時間にすれば1秒だったかもしれないし、もしかしたら10秒くらいだったかもしれない。
だけど私からしたらすごく長い時間に感じられた。
まるでカエルを睨む蛇のように。
もちろん私がカエルであっちが蛇。
「沙耶」
不意に声をかけられ、男から目を逸らして振り向くと両手にグラスを持っているリカコの姿があった。
「はいこれ沙耶の分」
そう言って手渡されたのはカシスオレンジ。
お酒はハイボールかウイスキーって言ってるのにリカコは女らしくしなさい。なんて言って毎回酒屋で手渡して来るこれ。
もう慣れた。
お礼を言って、二階のVIPルームを見上げるとそこには先ほどの男の姿はなかった。
「どうかした?」
不思議そうに首を傾けて来るリカコに何でもないって返し、お酒を飲み干した。


