「ねぇ あっちに行こう?」

君は無遠慮なほど近づいて にこりと笑う

偽者の獣の匂いが鼻をつく

ここは 昼下がりの動物園


アフリカを夢見て眠るライオン

北極だと自分を騙して愛嬌を振舞うポールベア

野生に戻ることを諦めて客に餌をねだるニホンザル


着ぐるみのような現実を 人間から強引に押しきせられた

動物たちが 窮屈そうに身を縮める 不幸の巣窟で

ここぞとばかりに 君が笑顔を振るまくのは 何故なんだい?


三ヶ月ぶりのデート

なんて はしゃいでいるけどさ

二人して昨夜は ラブホテルに泊まったじゃない?

あれはデートって 言っちゃ駄目なのかな?


無邪気に駆け回る 子供たち

幸せそうな 家族連れ

そして 偽者の恋人を演じている 僕と君


単身赴任なんだ 仕方ないだろ?

そこで惰眠を貪っている ライオンと同じくらい

いや、比べ物にならないくらい低レベルな言い訳を

僕は千回心で呟く


遠く離れて暮らす家族のことなんて 忘れたふりで振舞うんだ

遠く離れたところにある故郷のことなんて 忘れたふりで歩き回る

ベンガルトラを真似てさ


冬の冷たい風が 二人を切り裂くように びゅうと吹いた

それでも君は 屈託なく笑ってるんだね


この恋が 紛い物だと いつか気がつくその日まで


2009.本物と偽者の区別が分からなくなりそうな冬の動物園で