ガタンと馬車が大きく揺れた。

 何?何事なの?
 
 アリアが外をのぞいてみると、どうやら馬車は賊に襲われているらしい。
 
 はあ……ついてない……。
 
 アリアは落ち込みを通り越して、腹が立ってきた。
 次瞬間には外へ飛び出していた。
 
「ちょっとあんたたち!私はすこぶる機嫌が悪いのよ!
とっとと失せなさい!」
 
 突然のお姫様の乱入に周りは戸惑う。

「何だ?こいつ。悪魔の嫁のくせに!」

 悪魔の嫁?
 
 アリアにはそんな者になった覚えはない。

「いいから殺してしまえ!」
 
 おそらく頭であろう、大男の合図で大きな弓が
アリアをとらえた。

「きゃ……」

 こりゃ死んだな……アリアは思った。
 別に死は怖くない、もう生きる意味はない。

 しかしアリアは死ななかった。
 矢はアリアの届く寸前で撃ち落とされていたから。
 アリアを包む大きな身体。

「大丈夫ですか?」
 
「ありがと……」

 アリアは礼を言おうとして、言葉を失った。
 男の声の顔はまだあどけない青年。
 しかし、その髪は美しい白髪だったからだ。