カルマキルに行くと決心してから、すぐに伯母に事情を話して家を出る準備をした。
 仕方ないとばかり送り出してくれた伯母から受け取ったのは一振りの剣。
 唯一残された父母の形見である剣だった。
「あんたはあの二人の子供だからね、こういう事もあると思ってたよ。でも無茶はしないでおくれよ」
と。
 記憶では穏やかで大人しい性格の鍛冶屋の父だったが、二十歳そこそこで家を飛び出し、ようやく連絡が取れたと思ったらいつの間にか結婚し、子供が生まれていたという。
 どうやら両親はかけおちしたらしい。
 自分で決めたことは貫く心根を持っていた両親。
 それが判っているからこそ、アルカディアの行動を許してくれた。
 女性が持つにはちょっと重いだろう剣。
 幼い頃から剣術を覚えたのは、いつかこの形見の剣を扱えるようになるためだ。
 伯母にお礼を言って家を出て、港でシノと落ち合った。
 海を渡った南陸にあるカルマキル国に行くためには、港から船に乗る方法しかない。
 しかし、長旅の準備と言いながら、海を渡る船を2隻程見送っている。
「やっぱりこの国を離れるのは心細い?」
「いや、そんな事はないが……」
 心配そうに声をかけるシノに微笑を見せる。
 彼のお陰で現在の自分の状況が判ったのはいいが、何か見えない力に引っ張られるような感じがする。
 このまま海を渡っていいのだろうか……。
 そんな思いがして仕方ないのだ。
 自分が行こうと決心した事を変える気はさらさらない。
 考え込んでいるディアを心配そうに見ているシノ。
『僕も一緒にカルマキルに行くよ。ていうより帰るだけどね』
とアルカディアとの同行を申し出てきた彼。
 彼が何者なのかも気になるところだが、会ってから今まで、のらりくらりとかわされて、もう問いかける気は失せてしまった。
『そんなに僕のこと知りたいなら、過去の僕よりこれからの僕を見ていて』
とにっこり笑顔。
 たぶん、口では敵わない、と悟った。
 悩んでいる暇などない。さっさと行って、理由を聞いて、自由になりたいのだ。
「シノ。あの船に乗るぞ」
 今日の最終便。これを見送れば明日になるまで待たなければならない。
 大陸までの時間は訳1日かかるのだ。
 途中リサニル国の領土である島で停泊して一泊することになる。
 チケットを購入したアルカディアとシノは、カルマキル国に向かう船に乗り込んだ。

 そして、その姿を確認した数人の男たちも、同じ船へと乗り込んでいった。