翌日、今日もまたシノと名乗った少年は彼女の前に現れた。
 昨日と同じくまた変な奴らに追われてしまったのだ。
 金がどうとかと言われながら。
 どうやら昨夜会った男たちが仲間を集めて探しているようだった。
 地元ではそこそこ名が知られている彼女の存在は、まだ自宅は知られていないようだが、ある程度の情報がもうバレているようだ。
「一体何なの?、こいつらは!?」
 とうとう耐え切れなくなってアルカディアが叫んだ。
「あれ? 知らなかったの?」
 それを悠長に聞いていたシノがキョトンとした表情で言う。
「お前……知っているの?」
 アルカディアに促されてシノが話し出す。
 別に隠すことでもないらしい。
「"アルカディア"って名前に賞金が付いてるみたいだよ」
 予想外の答えをいともあっさり言ってくれた。
「何で名前に?」
「僕が知っているのは南大陸のカルマキル国の王が、その名の者を探しているらしいって。なかなか見つからないから、"アルカディア"を連れて行けば多額のお金が貰えるってウワサがカルマキルの方の港町に広がっている」
「じゃあ私は、この名前の所為で人に追われるようになっていたのか?」
「うん、だと思うよ」
 にっこり笑顔付きで答えてくれた。
 だからああいう破落戸のような者が、必死になって追っかけてくるのか……。
 納得したくないが、ちょっと納得。
「でも、なんで探してるんだ?」
「それ…は、僕も詳しく判らないけど、賞金がつくほどだから、よっぽどの用事かもしれないね」
「ふーーん」
 シノの言葉にふつふつと怒りが湧き上がってくる。
 追いかけてくる男たちもそうだが、こんなやり方を許している隣国の王に対してもだ。
 同じ名前の者がどれだけ迷惑するのか、考えてくれと言いたい。
 カルマキルは学問の国と呼ばれる南大陸の大国だ。
 海を挟んだ隣国で、一日に船便が何度も行き来していて、テニトラニスと経済的にも友好関係にある。
 過去に…幼いころ両親と共に過ごした国が、記憶にはあまりないのだがカルマキルだと聞かされている。
 王が探しているのは、自分であるとは全く思わないのだが……。
 先日、懐かしい夢を見た。
 無邪気に街を走り回っていた、幼い記憶。
『また、会おう』
 もうほとんど顔も忘れてしまった相手との約束を思い出した。
 その場所もたぶん“カルマキル“だ。
 黙り込んでいるアルカディアを心配そうに見ているシノ。
「…ディア?」
「…よし、決めた」
「え?」
「あんな奴らに追われるくらいなら、自分の意志でカルマキルの国まで行ってやる」
「じゃあ、僕が一緒に行ってあげるよ」
「なんでお前まで」
「僕もカルマキルの人間だし、そろそろ戻る予定だったからちょうどいい。詳しい人がいた方が楽でしょ」
 はい決定っとばかりシノが彼女の手を取り握手する。
 確かに案内人がいる方が安心できるが、昨日今日、出会った少年を信用できるのかという不安もある。
「しっかり案内するから」
「…シノもお金目当てだったり…する?」
「あはは、もらったら一緒に豪遊してみる?」
 笑った青い瞳に嘘が見えなくて、アルカディアは素直にシノの申し出を受けることにした。