『冗談じゃない。私が何をしたんだ!?』
 追いかけられながら考えるが何も思い当たる事がない。
 港町の入り組んだ町並みを駆け回る。
 明るい時には歩きなれた道も、薄暗くなれば勝手が違う。
 それでも他国の者に比べれば大丈夫だろうと思いながら走ったのだか、なぜか相手はしつこい。
 4人という数を使って、挟みこもうと追いかけてくる。
 自分の家に真っ直ぐ帰って、家を知られてでもしたら厄介な気がして何とか巻こうと走っている。
 どれくらい走っただろうか。
 逃げている時にいきなり腕を引っ張られ、物置の中へと連れ込まれた。
「・・・っつ」
 奴らの仲間だと思って振りほどこうと手を挙げたが、
「静かに、隠れて」
 耳元に聞こえた声は若い男の声。
 追いかけて来た男達はその辺りをうろうろしていたが、諦めたのかどこかへ走って行ってしまった。
 気配がないのを確認してようやく安堵の溜め息を付き、隠れていた物置から外へ出た。
「もう大丈夫そうだね」
「どうもありがとう。助かった」
 彼女を助けた人は、見ればアルカディアより年下に見える、まだ少し幼さが残っている顔立ちをした男の子。
 淡い髪色に青い瞳が真っ直ぐ彼女を見つめる。
「姉さんの名前"アルカディア"だよね?」
と、突然人懐っこい笑顔で聞いてくる。
 問いではなく、確認。
「・・・そうだ・・けど・・・君は?」
 警戒心を持って問いかける。
 初対面なのに名前を知られているのが気になったのだ。
 それにさっきの男達も名前を知ってから突然態度が変わった。
 まさか、やっぱりあいつらの仲間なんじゃ……。
 そんな考えが浮かんでくる。
「僕の名はシノ。よろしく」
と、また微笑んで言う。
 よろしくも何もこれで別れだろうに……と思ったのだが、
 ・・・それは甘い考えだった……。