にっこり笑みを見せるエイーナを紹介するようにシーフィラノが答える。
 親しげな理由がやっとわかって納得する。
 テニトラニスにいた時も、あまり姿を見た記憶がないのは留学中だからか。
 って、王子を立たせて私が座ってるってダメじゃないっ。
 再び勢いよく立ち上がったアルカディアに、
「じゃあ、シノの事、よろしく頼むよ、ディア」
 ぎゅっと握手をされて、きっちり頼まれてしまった。
「…はい」
って返事を返してしまったが、そもそも一般市民の私なんかが、こんな頼まれごとを聞ける立場なのかという疑問は置き去りにされている。
「何かあったらすぐ、僕に判るようにしてあるから。くれぐれも無茶はするなよ、シノ」
 部屋から出る時もシノに念押しを忘れず、エイーナは去って行った。
 茫然の見送った後アルカディアは力が抜けたように床に座り込む。
「ディア?」
「シノが大国の王子様だっただけでも驚きなのに、エイーナ様までって…」
「俺の見張りを頼まれたんだから、しっかり遂行するように」
「えぇぇー?!」
「エィは、俺の眠りの原因を調べて目覚めるようにと、一番協力してくれた親友だ。心配かけないように約束は守らないとな」
 誠実な口調は、自分自身に言い聞かせるような言葉。
 床に座ったままの彼女の頭を、ベッドから伸ばした手で優しく撫でる。
 まだ眠りから覚めたばかりの身体は、筋力の低下で体力も落ちている。
 当分は大変なリハビリが続くことになるだろう。
「では、今はゆっくり身体を休めて、眠ってください」
「わかった…」
仕方なさそうに頷いて、ベッドに深く身体を預ける。
アルカディアは布団を整えてシノの体に掛けようとして、手を捕らえられる。
「で、目覚めは今度こそ、お姫様のキスで起こしてくれるんだろうね」
「っ…しませんっ」
 えーーと抗議の声を上げながら、シノは眠りにつく。
 つかんだ手は、離さないままに。
 捕らえられた手は、振り解かないままで。

                      【END】

後日談。
アルカディアの持っていた形見の剣。
刀身に刻まれた文様から『剣術の国ルクウート』の貴族『アルカ家』の紋と判明。
アルカ家は王家の側で近衛騎士を多く輩出、過去には王族の姫を降嫁するなど、名門貴族として知られている。
公には伏せられていたが、現当主の妹が20年ほど前にアルカ家のお抱え刀匠の若者と共に失踪して現在も行方不明とのこと。
ディア=リーマ=アルカとして認められ、シーフィラノの婚約者として認められることになった。