「でも、眠っているはずのシノが、どうやって私の前へ…」
 眠っているシノを見下ろして呟く。
 テニトラニスに居た自分の前に現れて、カルマキルに行くよう案内してきたのは彼のはず。
「あれは、身体から離れた…幽体離脱のようなものです」
「えぇ!?」
「だから眠りについた頃の姿、3年前の姿でした」
「どうやってそんな事できるの?」
「カルマキル国より南西に『魔導の国ソハコサ』があります。その不可思議な術を借りれば、可能になります」
「そうなんだ…」
 自分自身が眠りながらも、自ら迎えに来たということなのか。
「……私は、何をすればいい?」
 ここで彼が目を覚ますのを待つだけ…そんな事で呼ばれるはずもない。
 眠っている身体。
 そう、眠っているのは躰だけだ。
 精神はずっと一緒にいたのだから。
「貴女に、起こして欲しいのです。目覚める『きっかけ』になれば、と」
「きっかけ?」
「はい。……遠い昔に、約束をされたでしょう?」
 そんな覚えなど…ないと否定しようとして、ふわっと窓から入ってきた風が彼女の髪を揺らしていった。
 そうだ、カルマキルを離れる時に、年上の少年と約束を交わした。
「約束…十年前に……」
 十年前は両親が死んだ時。
 その時に……出逢っていた、年上の少年。
 何度か街中で出逢い、友達になっていた。
 その時も泣いている私を慰め、涙が止まるまでずっと手を繋いで側にいてくれた。
 泣いていた自分に、優しく声をかけてくれた少年。
『16になったら、僕のもとへおいで』
 無邪気な約束だった。
 約束の16歳になっても果たされないまま、すでに時は過ぎている。
 まさか…その少年が………。