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 紗菜の持ってきたノートや問題集は、ほかの人のぶんと一緒にあっという間に奪われて手書きによる複写対象となった。
 人数は紗菜を除くと男子が七名、女子が一名だった。といってもその女子はサッカー部のマネージャーなので、紗菜だけ場違いであることに変わりはなく、居心地は決していいとは言えなかった。

 その訳知り顔の女子、マネージャーの希(のぞみ)は一応気を遣ってくれたのだろう。スマホに視線を落としたままで、紗菜に言った。

「好きにしてていいからね。なんなら、幹仁の部屋の漫画でも読んでる?」

 どうやら寺の息子の名は幹仁で合っていたようだ。

「えっと、どうしようかな」

 そうしなよ、と紗菜にとってのこの場においては一応の心のよりどころである朝陽がテキストから顔をあげた。

「幹仁、部屋に案内していいか?」

「なんでおまえが案内するんだよ。俺が」

「紗菜に声かけたのおれだから。見られちゃやばい本とかあるなら、とっとと隠してこい。三十数えたらそっち行く」

「だからなんでおまえが仕切ってんだよ」

「いーち、にーい」

「げ。待て、待ってろよ、くそ」

 どうやら朝陽は寺の息子の幹仁とそれなりに仲がいいようだ。