その朝陽が調理室の窓の外から話しかけてきたのだ。

「それ、作ったの? うまそうなんだけど」

 なんだ、と紗菜はがっかりした。食べ物につられただけか。真夏の炎天下、グラウンドを駆け回った身にはどんなシャーベットもおいしそうに映るに決まっている。

 事実、窓越しの朝陽の目は紗菜の手元に釘づけだった。ガラスカップに入った白いシャーベット。
 わかりやすく食べたい態度を示してくれたので、紗菜はこう言った。
「部活でさっき作ったんだ。食べてみる?」

「食べる。あ、でもひとくちでいいや。用件忘れそうなんで」
「え」
「これでいい」


 朝陽は紗菜のスプーンを勝手に借りると、紗菜の食べかけのシャーベットをすくって口に運んだ。朝陽のためにスプーンを取ってこようと振り返った矢先の出来事だった。間接キスと思っていいのかどうか。やった当人が平然としているのだから、こちらもなんでもないことにしなければ。

 さすが体育会系と結論づけ、紗菜が平常心を呼び起こそうとしていたところ、今度はこんなことを言ってきた。

「紗菜っていつもグラウンドを見てるよね」
「あ、うん。まあ」
「サッカー部に誰か気になる相手でもいるのかと思って」

 指摘に言葉を失った。気づかれていた。