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「いま、ひとり?」
と昨日朝陽に声をかけられたとき、紗菜は呼ばれているのが自分ではない気がした。まるでナンパのような口調だったし、クラスでも挨拶程度にしか口を利いたことがなかったしで、青天の霹靂というやつだった。
後ろを振り返りもせずに、紗菜は頷いた。
「他の部員もいたんだけど、しばらく戻らないと思う。みんな、彼氏のところに行っちゃったから」
紗菜の所属する調理部は、その日が夏休みの最終活動日だった。出来上がった桃のシャーベットを恋人と一緒に食べると言い残し、四名の他の部員たちはいそいそと調理室を出ていった。こういうことはよくあることだった。紗菜は慣れっこだったし、かえって都合がよかった。退屈そうに窓の外をぼんやり眺めるいい理由になる。
グラウンドはいくつかの運動部が使っていて、なかでもサッカー部が一番こちら寄りで練習をしていた。強豪なのかどうなのかは知らないが、楽しそうにボールを蹴る集団を見ているうちに、お気に入りの人ができた。それが同じクラスの朝陽だった。
それから紗菜は教室にいるときも朝陽を意識するようになった。特殊なレーダーが急に身体についたように、朝陽が室内のどちらにいるのかわかるようになったし、机と机のあいだの狭いところをすれ違うとき、ひとりで勝手にどきどきしていた。
「いま、ひとり?」
と昨日朝陽に声をかけられたとき、紗菜は呼ばれているのが自分ではない気がした。まるでナンパのような口調だったし、クラスでも挨拶程度にしか口を利いたことがなかったしで、青天の霹靂というやつだった。
後ろを振り返りもせずに、紗菜は頷いた。
「他の部員もいたんだけど、しばらく戻らないと思う。みんな、彼氏のところに行っちゃったから」
紗菜の所属する調理部は、その日が夏休みの最終活動日だった。出来上がった桃のシャーベットを恋人と一緒に食べると言い残し、四名の他の部員たちはいそいそと調理室を出ていった。こういうことはよくあることだった。紗菜は慣れっこだったし、かえって都合がよかった。退屈そうに窓の外をぼんやり眺めるいい理由になる。
グラウンドはいくつかの運動部が使っていて、なかでもサッカー部が一番こちら寄りで練習をしていた。強豪なのかどうなのかは知らないが、楽しそうにボールを蹴る集団を見ているうちに、お気に入りの人ができた。それが同じクラスの朝陽だった。
それから紗菜は教室にいるときも朝陽を意識するようになった。特殊なレーダーが急に身体についたように、朝陽が室内のどちらにいるのかわかるようになったし、机と机のあいだの狭いところをすれ違うとき、ひとりで勝手にどきどきしていた。


