朝陽は覚えていてくれるだろうか。
 来年の夏になっても、その先の夏が来ても、朝陽は紗菜と過ごした八月三十一日のこの花火を忘れずにいてくれるだろうか。


 紗菜は忘れない。思いつきをすぐに実行する朝陽の行動力に見惚れた。付き従うのが一緒にいて当然の行為に思えた。
 次になにを言ってくるのか見当がつかず、驚くくらい人との距離を詰めてくる男の子。

 サッカー部の人たちと思うように仲良くできず、最高とは言い難い夏休み最後の日かと思ったけれど、そうでもなかった。最後の最後に、特別なひとときをくれた。


 朝陽が次の花火を炎に伸ばした。先端に火がつくのを紗菜は黙って見ていた。

「なあ」

「うん?」

「紗菜の気になってたヤツと少しは仲良くなれた?」


 わずかに思いを巡らせたのち、紗菜は頷いてみせた。声には出せなかった。
 勝手な思い込みかもしれないけれど、少なくとも自分は仲良くなれたと思っている。

 おれも、と流れ落ちる火花の音にかき消されそうな声が聞こえた。花火に顔を照らされた朝陽が静かに微笑んでいた。

「夏休みの最後に、気になってた子と花火ができた」