すげえ、と樽見さんは虹を見るなりつぶやいた。その横顔を密かに観察しながら、まずいなと私は思っていた。
 会議室から出るところを見たことがあるくらいで、彼のことはよく知らなかった。

 樽見さんがスマホで虹を撮ろうとするも、脇から画面を盗み見した限りではビルが遮って端まで写せていなかった。角度を変えても横にずれても変わりなく、そうこうしているうちに虹自体が消えかけていた。


「あの、よかったら」

 見ます? と撮っておいた虹の画像を表示させてスマホを差し出すと、樽見さんは間髪入れずに覗きこんできた。長身を屈めて食いいるように見つめている。

 私はというと、自分から申し出ておきながら一気に詰まった距離にどぎまぎしていた。
 無駄な肉が削ぎ落された印象が際立つ、彫りが深くて精悍な顔立ちに、銀縁の眼鏡。短く整えられた黒髪が清潔感を誘う。
 この上背にしてこの細身の体なら、作業服よりもスーツのほうが似あいそうだ。
 眼鏡男子なんてカテゴリーに興味はなかったけれど、惹かれる女子の気持ちがなんとなく分かった。