ただのモンブランなら手は出さない。和栗のモンブランといわれると美味しさ三割増し。
 そんな会話のあと、視線がぶつかった。まただ。これで何度目だろう。

「樽見(たるみ)さんて、あの人に似てますね」

 乗ってくれたら幸いくらいの軽い気持ちで話題を振った。

「誰」
「名前ど忘れ。えっと、水曜十時の医療系ミステリの」
「分からない」

 よかった。私は胸をなでおろした。
 水10の医療系ドラマの俳優なんて言ってはみたものの、樽見さんとの共通項は眼鏡をかけたクール系イケメンってことくらいだ。あっちは苦み走った四十代、対するこちらは働き盛りの二十代。年恰好に無理があった。

「ドラマとか観ないんですか」
「あんまり。居間のはなに観たらいいのかさっぱりで」
「お薦めですよ。水曜十時の。雰囲気似てますから」

 雰囲気、と私のあとを継ぐようにつぶやいた口にティーカップが添えられる。
 樽見さんは男の人にしては細い指をしていた。その左手薬指に指輪はない。