今年の春。


私は、病室で桜並木を眺めていた。


回診にくる時間を忘れ、裸足で床に降りていたのだ。


「雪ちゃん!

裸足で床に降りたらダメだって。

まだ春とはいえ寒さは残ってるんだからね?」


私をいつも担当してくれている医者の神崎先生に抱き上げられ、ベッドに戻された。



神崎先生は親のいない私を引き取ってくれた。




私は、先天性の心奇形である心室中隔欠損症で産まれてきた。



その現実を知った、母親と父親は私を赤ちゃんポストに預けたそうだ。



そこから、当時母親の主治医をしていた神崎先生が、可哀想だと思った私を引き取ってくれたんだろう。




同情されて、私は救われたと思うとなんだか悔しい。




だけど、先生がいなかったら私は、今頃親にあたる人がいなくて自暴自棄になっていたに違いない。



複数の施設職員が親代わりなんてできるわけがないんだから。




「雪乃、胸の音聴くから少ししゃべらないで。」




「わかってるよ。」



高校1年生になった今でも、先生は私を子ども扱いをしてくる。



「音はきれいだね…。


でも、今日も朝ごはん食べられてなかったみたいだけどやっぱりまだ食欲はないか?」






「うん。昨日の夜よりかは大丈夫になってきたんだけど…。



まだ、本調子じゃないかも…。」





「そっか…。



本当は、今日にでも退院できたんだけど…。



雪乃が、家に帰ることが心配だったら、もう少しここで診るけど、家ならいつでもそばにいることができるから、不安なことがあったら俺に言うのもありだし…。


雪乃は、どうしたい?」





「そんなの、退院したいにきまってるじゃん。」





「ははは。

意地悪な聞き方して悪かった。

そうだよな、家が1番いいか?」





「ここよりはましだよ…。」




本当は、先生がいてくれるなら安心する。




けど、そんなことは恥ずかしくて死んでも言えないよ…。




でも、先生は何かを組み取ったかのように、優しく私の髪の毛を撫でてくれた。