「貸せ」

美味しそうな雑炊の香りを堪能していると、石堂さんが私の手から器を取り、スプーンでひとすくいする。

「食わしてやるから、口開けろ」

「え? あ、あの……」

「いいから」

あつあつの雑炊に石堂さんがフーフー息を吹きかけて私の口元へ運ぶ。否応なしに「黙って食え」と石堂さんの目に言われ、戸惑う間もなく私は甘んじてひとくち食べた。

「美味しいです。わざわざ作ってきてくれたんですね」

石堂さんの手作り雑炊……あぁ、幸せ――。

病気をした時、いつもひとりで心細かった。ひとりで暮らすということはそういうことなのだ、と自身に甘えないようにしてきた。けれど、石堂さんの優しさに触れたら、そんな気概もあっけなく崩れ落ちてしまう。

「ぷっ! なんか、餌付けしてるみたいだな」

そう言って、石堂さんは私が食べている姿を見て、堪えきれないといったように噴き出した。