目があった相手に、言葉を失う。

「…ごきげんよう、葉瑠さん?」
「…こんにちは…凛花さん」

宗吾の婚約者。

「…社長室にご用?」
「…はい、少し雑務で。…失礼します」

私はそそくさとその場を離れようとした。

「…待って!」
「…」

凛花に背を向けたまま、私は足を止めた。

「…今日は、宗吾さんとの結納の日取りを決めに来ましたの」

思ってもいない言葉に、ビクッとなった。

宗吾と、凛花の関係は、まだまだ続いていた。

…宗吾の言った言葉は嘘だったことになる。

私は怪訝な顔のまま、凛花に振り返った。

すると凛花は笑みを浮かべた。

「…泥棒猫に、宗吾さんはあげないわ」

そう言うと、凛花は社長室に入っていった。