「あぁ、お疲れ様です。
呼びに来てくれたんですね。」

新聞から顔を上げた彼が、あからさまに嬉しそうな顔で振り向くので、反応に困る。

「そう、ですけど……」

そんなに見つめないで欲しい。
楽屋の扉に立つ私とソファーに座る彼にはそれなりに距離があるが、この際そんなことは関係ない。

「な、何でそんなに見るんですかっ……?」

視線に耐えきれず背を向ける。
心の安定が全くもって取り戻せない。

「そうですね……何でだと思います?」

ソファーから立ち上がり、革靴の足音が微かに背後から近づく。

「分かりませんっ、それよりほら、
早くゲストに挨拶しに行きましょう。」

はぐらかして扉を開けようとする。

が、ドアノブにかけた手の上から、彼の手が覆い被さる。背中には彼の逞しい胸板の感触。