「二宮アナが缶を置いて休憩室を出る時に、丁度目が覚めて、後ろ姿でなんとなく。」

不思議そうに尋ねた私に、彼は軽く微笑んだ。

「わざわざ、ありがとうございます。
お忙しい所失礼致しました。」

後ろ姿で認知されていたことに、少し嬉しさを感じながら、深々と頭を下げた。

「いや……二宮アナも、お疲れ様。」

顔を上げた私に、八王子アナはそう答えて颯爽と収録へ向かった。




それ以降も相変わらず番組共演はなく、八王子アナとは、すれ違えば挨拶をするくらいの関係でしかない。

ただ、むしろそのほうが好ましい。

あんな人気者に近付くのは恐れ多く、周りの目も怖い。

室長が私と彼を同時に呼び出したのだって、きっと別件に違いない。

過去の一件を思い返してそう結論付けると、私は溜まっている家事に取り掛かった。