「はい…ごめんなさい」


なんかこの人、めんどくさいなぁ…。苦手。
きっと大人の私も距離置いてただろうな。

女はタバコを置いてあった空き缶で消すと、何もない部屋をもて余したのか、反応の薄い三津代に諦めたのか
間もなく立ち上がった。

「とにかく。柴田のオヤジの10万、とっととかえししなさいよ。絶対つけこまれるんだから」

そう言い捨てて、部屋を出た。

「ふぅっ。」

深く短いため息がでる。


「しかし…この部屋。

まるで空き家じゃない。

一体どうなってるの?」

部屋には 古びた洋服ダンスと、小さな四角いテーブル、 着物が窓辺にかけてあり、それに テーブルの上には写真たてが置いてあった。


「あ…。これ」


私の写真。

これ、持ってる。

小さい時のやつ。


お姉ちゃんとお父さんとお母さん、わたし。


いちばん好きな写真。 大事にしてたんだ。


まだ持ってたのか…。


それを眺めてると、記憶が無くなったなんて嘘みたいに思えた。