「なつめちゃんは…

どうして私と別々に暮らしてるの?」

なつめの顔が一瞬、曇る。

「…。」


「私、なつめちゃんになにかひどいこと

してたのかな。」
三津代は不安を隠せなかった。

なつめは静かに首を横に振って答える。

「三津代さんは、私に悪いことなんてしてないよ。

本当に本当。

これはね

私の問題なんだ。


お母さんと私…本当にいろいろあって。
お父さんのこととか。

正直ね、

いまも凄く辛いの。

家に帰ったら、お父さんがいたころを思い出しちゃうし。


でも、


なつめは、泣きそうになるのを我慢した。


「…お母さんを好きな気持ちを忘れる事はない。

それは絶対にないから。

むしろ、いつかありがとうって言える自分になりたいの。

今はその…準備中。」

なつめは三津代の顔を見ずに 空を見ながら話した。

三津代はなつめの横顔をみてるうち、ふと なつめを抱きしめたい衝動にかられた。

それはとても強い衝動だった。

だけど、誰かを抱きしめた経験のない三津代には ありったけの勇気を集めても、実行できそうになかった。