年配看護師さんが蜂を外へ追いやってくれた。

柴田は、ギラギラと光るおでこの汗を、作業着の袖で拭った。


「ひぃぃぃ。いやぁ、冷や汗かきましたよぉぉ~。
今、スズメ蜂が私のおでこに止まりましたよ。死ぬかと思いました。そんな間抜けな死にかた、したくありませんよ~。」


三津代は無言のまま、どちらにせよこの人はかっこよく世を去る事はないだろうと、いやに冷めた頭で思った。

何よりこっちは夢の中で、あなたのせいでその百倍くらいの冷や汗をかかされたのだ。


「はぁ。
ところで三津代さん、調子はどうですか?」


柴田は首に下げた手拭いで、改めて汗を拭いながら言った。

タオルには「(有)えのき工務店」と書かれていた。


「別に…特になにも。」


三津代は極めてそっけなく返した。

「三津代さん。

僕に甘えてくれて、いいんだよ。

あれから一晩考えて僕は決めたんです。

これから一生かけて、三津代さんを幸せにすると!」

三津代はその言葉で悪夢を思いだし、全身に鳥肌が立った。


「あの。

…私は記憶が無いんです。
オジサンのこと、全然知らないの。

そういう事は、以前の私におっしゃって下さい。

そもそも、あなたは私の何だったんですか?」


柴田は、だんまりした。


「…お金。」

ボソッと、呟く。


「へ?何?」


「お金、ですよ。」