「それでもお母様とは医療施設の方に行けば会えますから、私は許可が降りてから毎日会いに行っていました。お母様は私の笑った顔が好きだと仰られたので、例え寂しくても悲しくても、私は笑い続けることを忘れませんでした。そこら辺は梓さんから聞いていると思います。」
「あぁ。最初は母親を喜ばせる為に笑っていたんだとな。」
その頃から父親との間にすれ違いが起こるようになったとも聞いたが………。
「そんな生活が1年程続きました。その1年間で、お父様がお母様の元へ帰ったことは………一度も、ありませんでした。」
悔しさや悲しみなどの、沢山の感情が入り交じった声でそう言った紫雨の表情は、ただ笑っていた。
「一度もって………ただの一度も?」
「はい。」
そりゃあ紫雨に怨まれもするって、あの人………。
「1年間、お父様は帰ってこようと思えば帰れる状況にありながら、お母様の元に帰ったことはありません。仕事先の海外で脱走する暇はあるのに、ですよ。おかしいと思いませんか?」

