縛られし者





「確かに、当初は寂しかったのかもしれません。ですが今は、怒りや憎しみなどの負の感情で覆われてしまって、寂しいという感情を忘れてしまいました。」

「怒りや憎しみ?」

「はい。その感情を覚えたのは、お母様のお葬式の日にお父様が涙を流して泣いていた光景を見た時でした。心の奥底から溢れ出る抑えきれないほどの大きなそれを怒りや憎しみだと感じ取るのに、大した時間はかかりませんでした。」



葬式でその者の死を悼み、泣く姿を見て怒りや憎しみの感情が湧くか?


それに普通、最愛の人を喪ったら誰でも泣くと思うが………紫雨にはそう思えない何かがあったってことか?



「お父様は昔、仕事の為に海外に行っておられて、あまり日本に戻ってこられなかったんです。
お母様は病弱で、紫雨家の敷地内にある医療施設から出ることは出来ませんでした。
まぁそんなわけで、私は物心つく前から梓さんとしか関わりがなかったんです。どんな時でも、私はあの屋敷では一人でした。食事をするのも学校の教室の6、7倍は大きい食堂に、こんなに必要なのかと思う程長くて大きなテーブルで、独りを実感しながら食べていました。」



成程………独りでしか食事をしたことがないから、誰かと一緒に食事をするということの意味も、楽しさや嬉しさも知らなかったと………。