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数分だったか数十分だったか………とにかくぶつぶつと独り言を言っている紫雨の背中を叩き続けていれば、自然と独り言を言わなくなった。
「落ち着いたか?」
その問い掛けに対しての紫雨からの返事はなかったが、静かにコクリと頷いた。
「そうかそうかそれは良かった。良かったから、落ち着いたなら離れてくれないか?」
「………一条聖斗先生。私は記憶上あの人達と揃っての食事なんてしたことはありませんし、どちらか片方との食事もしたことはありません。」
………俺の言葉をさりげなく無視した紫雨の何気ない言葉の中に、両親を家族だと思っていないことが伺える節がある。
親なら、あの人達ではなく家族だと言えば手っ取り早くていいし、片方とのと言う言葉にもどこか棘を感じる。
家族だと思っていないから、まず家族という言葉が出てこない。

