少し前したのと同じようなことを、なるべくゆっくりと、そして紫雨を刺激しないように気をつけながら説明する。
「だって…………。」
「だって?」
「だって、誰もそんなこと………。」
最後の言葉は聞こえなかったが、『誰もそんなこと言わなかった』と、おそらくは言おうとしたのだろう。
「私はいつも……ずっと毎日毎日、お父様が帰ってくるのを待っていて、でも………私が駄目だったから、お父様はどんなに待っても帰って来なくて………。お母様だって、私が駄目だからああなって…………だから、誰かと食事なんてしてるより、もっと他にするべきことがあって、だから…………。」
軽い錯乱状態になっている紫雨を見ていると、この子供が本当に憐れに思えてきた。
「ほら落ち着け紫雨。誰も絶対にそうでないといけないとは言ってないんだ。」
「………うん。」
背中をポンポンと叩きながら落ち着かせる。
………何故か抱きつかれていることについては、今回は何も言わないでおこう。

