「って、はぁぁあああ!?」

「煩いですよ、一条聖斗先生。」

「いや煩いってお前、この構図は流石にちょっと…………。」

「大丈夫です。鍵は閉めてありますし、この時間に学校に残っているのは部活をしている人ぐらいですから。
それに、寝ろと言ったのは一条聖斗先生ですよ。眠れないなら横になるだけでもいいと。」



人の膝使って寝ろだなんて言ったつもりじゃなかったんだが………。



「それにしても………。」

「あ?膝が硬いとかいう文句なら受け付けないからな。お前が勝手に乗ったんだ。」

「いえ、そうではなくて……………。」

「紫雨?」

「私、眠る時に誰かが側に居るなんて初めての経験なんです。」

「そうなのか?」

「はい。私の記憶は3歳頃からあるのですが、その頃お父様は海外に居ましたし、お母様は病気でほぼ寝たきり状態だったんです。
今思い返せば、両親に抱きしめられた記憶も頭を撫でられた記憶も無いなって、ふと思ってしまって………。」



紫雨は、まるで縋り付くように俺の腰に腕を回した。



そんな紫雨の姿にはいつもの凛とした雰囲気はなく、ただ迷子になった子供のように寂しげだった。