キスしたのは最低野郎でした。

「ん…あ、雪姫ちゃん起きてたんだ。ごめん僕が寝ちゃって」
えへへと言いながら翔くんは頭を搔く。
「別に大丈夫だよ。ていうか運ぶ時重かったでしょ」
「そんな! 他の女の子より遥かに軽かった!」
この言い方だと事実なのだろう。『他の女の子より』という言葉が凄く引っかかるがこの際気にしないでおく。
「良かったぁ凄い心配だったんだ。2人がかりで運んだとか言われたらダイエットだもん」
「いやいやいやいや失礼なんだけどさ、本当に失礼なんだけどさ、体重何キロ?」
翔くんは気を許した相手だと何処までも踏み込んでくる人だ。別に構わないがそれが裏目に出てないか心配だ。
「えーっと、三十キロだよ」
「え!? 軽過ぎて逆に怖い」
この通り思ったこともすぐ口にする。友達がちゃんといるのだろうか。いや翔くんの友達って相当心が広いってことになるんだろうけど。
「えーそうかな? 他の人の方が軽そう」
「僕が前おぶった部活のマネージャーさんは雪姫ちゃんと同じくらいの身長だったけど凄い重かった」
部活のマネージャーさんの酷い言われようである。
「多分あれは四十あるなー」
何処までも腹黒い翔くんでした。何処で道を間違えたのか何年も一緒にいる私ですら分からない。可哀想。
「ま、まあ体重は人それぞれだよ」
苦笑いを浮かべながらそう返す。
「まあ僕はすらっとした華奢な体が好きだけどね。雪姫ちゃんみたいな」
そう言ってぎゅっと抱き締める。
「そうすると折れちゃいそうなのいいよね」
「そんなに細くないよ!?」
「んあ?なんの騒ぎだ?」
グットタイミングとも言い難いタイミングで瑠輝君が顔を起こす。
「…あれこいつ居たんだっけか」
翔くんの声が先程の明るい声とは一変して冷淡な口調で瑠輝君に言葉を浴びせる。
「あ? お前が居ることが不思議でたまらねーな」
こちらも引く気は無い模様。ばちばちと火花が飛ぶんじゃないだろうかとも思わせる仲の悪い二人に私は言う。叫ぶ。
「もういい加減にしてよ!」