キスしたのは最低野郎でした。

私に足りない、たった1つのピースを持っている。
やだ。もうやめて。学校で喧嘩なんて、先輩にまた目付けられるから、やめて。
私は足が震えていた。立っているのがやっとだった。
こんな感じ、前にも…? 誰かと誰かが喧嘩してそれを見てるだけ、みたいな。
「うっ」
考えた瞬間頭に痛みが走った。
「雪姫ちゃん!?」
翔くんが私を助けようと隣にしゃがむ。
「どこか痛いの!?」
「お前何も知らないんだな」
冷たく言い放つ瑠輝君の声が響いてしまって頭痛がさらに強くなる。
「ううっ」
廊下に踞って声を上げる。
「雪姫ちゃん! 雪姫ちゃん! 僕の声聞こえる!?」
翔くんが、何か、叫んでる。
微かだが聞こえた。そんな翔くんに安心を覚える。
「しょ… くん、だ、いじょ…… ぶだか、ら」
途切れ途切れで紡ぐ言葉。翔くんが顔を真っ青にした気がした。私の体が浮いた気がする。
私の意識はそこで途切れた。

.+*:゚+。.☆

ぽつんと。
何も無い空間に1人立っていた。周りに壁も障害物も無くおまけに端が暗闇に呑まれているのでより部屋が広く感じた。
「…ここ、何処」
『君の記憶の中だよん』
小さな声で呟いた言葉に返事する声があった。少し声が低い。かと言って瑠輝君のように頼りになりそうな声では無くどちらかと言うと友達が危険に晒されていたらばいばーいって楽しそうに笑顔を向けてきそうな、そんな声音。
「貴方は誰?」
得体の知れない声に質問をする。返事は来るだろうか。
『んー、なんだろう、僕にも分からないや』
どうやらこいつは記憶喪失らしい。それかとぼけているか、どちらかだ。
「じゃあ貴方の事は訊かないでおく。さっき言ってたけど私の記憶の中、だっけ、どういう意味?」