キスしたのは最低野郎でした。

「いやいやいや、雪姫さん絶対努力してますよね?」
「そんなことないよ~」
まったりとした声で彼女に告げる。勿論嘘です。
「そうなんですか、何もしなくてもそんなになれるなんて、凄いですね」
この子はアホなのだろうか。本当に信じてしまっている。違う、天然か。
「そんなことないそんなことない、貴方だって頑張ればなれるよ」
「いえそんな、そんな可愛くなんてなれやしませんよ」
そんなどうでもいい会話を続ける。笑ったり気遣ったりするが実質本心なんかではない。皆の憧れを具現化しているだけだ。
「雪姫ちゃん!」
教室の扉から顔を出しているのは翔くんだった。
「あっ、翔くん来たから行くね」
談笑していた少女に謝って翔くんのところまで小走りで向かった。
「なーに? まだ別れて全然時間経ってないよ?」
やけに馴れ馴れしい口調で翔くんへ訊ねる。
「いや、ちょっと会いたくなっちゃって」
「へ? いつもはそんなこと言わないじゃんどーしたの?」
翔くんの言葉に浮かれた気持ちをなんとか抑えながら問う。
「いや、前はただの幼馴染だから邪魔しちゃ悪いなって思っちゃってそんなこと言えなかった。でも今は、恋人になれるかもしれない。瑠輝なんかに負けたくない。・・・雪姫ちゃん、僕を選んでよ。僕なら君を幸せに出来るから。瑠輝は選んじゃダメ。僕のそばにいてよ」
あ… 瑠輝君みたいな愛おしそうな目。
どうして二人共そんな瞳を私に向けるの?
いつも言葉でだけ好き好き言ってくる他の男子とは違って二人には大好き過ぎて気持ちが漏れてしまったかのような愛おしさが眼球に転がり込んでいた。その瞳に注がれた愛おしく思う気持ちが目を伝って私に注がれる。
…期待してしまう。
翔くんは私を抱き締める。
「…雪姫不足で死にそう」
「えっ」
ドキッとした。
私、不足?