キスしたのは最低野郎でした。

棗高校へ入るや否や私はさっさと上履きに履き替え三階へ続く階段を上がる。私の周りは何故かいつも人口密度が高い。暑苦しい。教室へ入ると人、人、人。それが私を囲む。
「あの、朝王子と翔さんが喧嘩したって聞いたんですけどどうなんですか?」
朝早く行ってしまっていていつも私とは会わない同級生が痛いところをついてくる。
「あー、まあ、うん、そうだね」
曖昧な返事しか出来なかった。今きっぱりそうだよと言ってしまったら絶対先輩の方まで情報がいってしまうから。
「どんな内容だったんですか!? 友達から聞いたところによりますと王子雪姫さんが好きらしいじゃないですか。まあ、男子なんか皆雪姫さんに夢中なので王子が好きだとしても有り得なくはないですが、少し意外でした。王子ってたらしそうに見えて一途なんだって思いましたね。雪姫さんは鬱陶しいかも知れませんが王子あれでも雪姫さん意外にはあんな言葉掛けませんし全力アピールなんてましてやしません。羨ましい限りです・・・。それに比較して雪姫さんの幼馴染の翔様はモデルをやっていて当然イケメンで頭もいい。王子の次をいっててもおかしくないレベルのお方です。確か翔様はずっと前から片想いしてたらしいですね。そんな翔様の気持ちに今まで気付かなかった雪姫さんって結構鈍いですね」
くすくすと彼女は笑う。こんなに詳しいのはそういうことに憧れているからだろう。こんなことされてみたい、してみたい。など憧れを持っている女子は少なくないだろう。そしてその夢を現実化させている私はどれだけ羨まれてるかも知っている。
「はぁ~羨ましいです、私ももっと可愛かったらそんなことされるのでしょうか」
瞳には尊敬の色が混ざっていた。それはもう綺麗で。見とれてしまうほど美しかった。
なんで、そんなに輝いているの?
私とは違う輝き。憧れという輝き。私はそれがいつも羨ましかった。私はなんでも出来てしまうから憧れというものがない。私が憧れだから。皆が羨む憧れだから。憧れるものがない、ということもあるだろう。とにかくいつも見る彼女たちの瞳が私には眩しいくらい輝いて見えた。
「生まれつきだし遺伝じゃないかな。私はあんまり考えたことないな」
笑顔を顔に貼り付けて何食わぬ顔で席へ着く。